Cloudflare OS
とは何か
2026年8月5日、Cloudflareという会社が、自分たちの社内で数千人が毎日使っていた仕組みを、そっくりそのまま無料で公開しました。
ひとことで言えば——
In one line
「社員ひとりひとりにAIを配る」の、次の話。
会社の仕事を、安心してAIに任せるための土台です。
そもそも、こういう困りごとがあります。
やりたいこと
請求書の確認、日報のまとめ、毎月の集計。面倒な仕事をAIに任せたい。
でも怖いこと
売上のデータや顧客名簿を触らせて、うっかり消されたら。外に漏れたら。
この2つを両立させるために作られたのが、Cloudflare OSです。
中身は、大きく3つのパーツでできています。
01
頼む場所
自分の会社の事情を知っているAIに、チャットで話しかける窓口
02
作られる道具
AIがその場で道具を作ってくれる。しかも、ひとりに1個ずつ
03
守る受付
会社のデータに触る手前に立って、通していいかを確かめる係
出典: Cloudflare公式ブログ
ここから、ひとつずつ見ていきます。
Part 01 なぜ「OS」という名前なのか
Structure
OSというのは、WindowsやiPhoneの中で動いている「土台のソフト」のことです。
アプリを動かしたり、プリンターとつないだり、誰が使えるかを決めたりする、縁の下の力持ちですね。
パソコンやスマホのOS
中心 全体を仕切っている本体
アプリ その上で動くLINEやExcel
つなぐ部品 プリンターやカメラとの接続
ログイン 誰が使っていいか
Cloudflare OS
中心 AIとのやり取りを仕切る本体
Gadget AIがその場で作る道具
Gatekeeper 社内データとの接続
入場管理 AIは最初、何も触れない
つまり——パソコンを動かす土台と同じ考え方で、会社のAIを動かす土台を作った。だから「OS」と名乗っているわけです。
Part 02 ひとりに1個ずつの道具
Gadget
いちばん考え方が変わっているのが、ここです。まず、実際の画面を見てみましょう。
— これは、あなた専用の道具です
— あなたの道具なので、ほかの人には影響しません
この「AIがその場で作ってくれた、自分だけの道具」を Gadget(ガジェット) と呼びます。
ポイントは、みんなで1個を共有するのではなく、全員が自分のコピーを持つことです。
たとえるなら
フロアに1台の共用コピー機と、机ごとに置かれた自分のプリンターの違いです。
共用コピー機は、誰かが紙を詰まらせると全員が止まります。順番待ちもある。設定を変えたければ、総務にお願いして許可を待つ。
自分のプリンターなら、詰まっても困るのは自分だけ。設定も好きに変えられます。
これまでの社内システム
みんなで使う1個
全員が同じところにつなぐ
- ・欲しい機能は要望書を出して、順番待ち
- ・不具合が出ると、全員の仕事が止まる
- ・直せるのは、作った担当者だけ
Cloudflare OS
道具
経理の人
道具
営業の人
道具
店舗の人
ひとりに1個ずつ
- ・欲しい機能は、AIに言えばその場で増える
- ・壊しても自分の分だけ。人には届かない
- ・AIがいるので、誰でも直せる
出典: Cloudflare公式ブログ / cloudflare/cloudflare-os
たとえば、こんな道具が「言うだけ」で生まれます。
在庫が減ったら知らせる道具
「在庫が10を切ったら教えて」と頼むだけ。以降は放っておいても知らせが届きます。
毎月の数字を書き写す道具
広告費の転記のような、決まった手順の作業。1回作れば、次からはボタンひとつ。
レビューを週1でまとめる道具
「開発を頼むほどでもない」と諦めていた小さな仕事が、頼むだけで形になります。
請求書を突き合わせる道具
数字が合わない箇所だけを拾い出す。様式が変わったら「直して」と言えば直ります。
ちなみに
AIに毎回「手順書を読ませて作業させる」のは、レシピを見ながら毎回いちから料理するようなもの。
Gadgetは、一度、炊飯器を作ってしまうやり方です。2回目からはボタンを押すだけ。速いし、毎回同じ仕上がりになります。
Part 03 データを守る「受付」
Gatekeeper
「AIに社内のデータを見せたい。でも漏れたら困る」——その板挟みへの答えです。
たとえるなら
オフィスビルの受付です。
来客に建物の合鍵は渡しません。渡すのは「3階の会議室だけ、14時から1時間」と書かれた入館証。
しかも、いつ誰がどの部屋に入ったかは、すべて記録に残ります。
AI
最初は何ひとつ触れない
受付(Gatekeeper)
許された分だけ通す
やったことは全部記録
会社のデータ
売上・顧客名簿・資料
合鍵を渡さない
AIが受け取るのは、持ち出せるパスワードではなく「この範囲だけ」という許可証。鍵そのものは受付の中に置いたままです。
必要な分だけ見せる
最初から全部の棚を開けて見せるのではなく、その仕事に要るものだけを、その都度渡すやり方です。
見たものが残る
AIが何を読んだかが記録され、その成果物にくっついていきます。別の人がその資料を開くと、その人の権限であらためて確認されます。
Part 04 「確認してから実行」の作り方
Approval
いちばん実務的な工夫が、ここにあります。まずは、よくある失敗から。
ありがちな失敗
朝 9:00
AIに仕事を頼んで、打ち合わせに出る
昼 12:00
戻ってみるといちばん最初の一手で「いいですか?」と止まったまま
その結果
面倒だから、確認なしで全部やらせる設定にしてしまう
安全のために入れたはずの確認が、かえって「確認をやめる理由」を作ってしまう。これが現場で本当に起きることです。
たとえるなら
出張の稟議に似ています。承認が下りるまで何も手配できないと、旅程が組めません。
ふつうは「たぶん通る前提」で予定を立てておいて、判子が押されてから実際に予約しますよね。Cloudflare OSがやっているのは、まさにこれです。
-
01
やりたいことを、順番待ちに並べる
データを書き換えるような操作は、その場では実行せず、いったん保留します。数時間後でも、翌日でも、判子が押されればいい設計です。
案件のタイトルを直す確認待ち担当者の印をつける確認待ち修正案を提出する確認待ち -
02
AIには「やった前提」で見せる
保留中の変更を、あたかも済んだかのように重ねて見せます。AIは待たずに次の作業へ進めるので、席を外している間も仕事が止まりません。
-
03
人が、まとめて判子を押す
溜まった分を、都合のいいタイミングで一覧で確認します。1件ごとに呼び止められることがなくなります。
-
04
押した分だけ、本当に実行される
ここで初めてデータが書き換わります。却下すれば、保留していた分が消えるだけ。先に実行してから取り消すのではありません——ここが大事なところです。
ここは誤解しやすい
どんな操作でも「やった前提」で見せてくれる
結果が読めるものだけ。読めないものは、素直に止まる
書類の管理システム
やった前提で見せる
タイトルや担当者の変更は、結果が読めるので先に見せてしまう
照明などの機器
一部だけ
スイッチを入れれば点く、のように答えが決まっているものに限る
データベースの直接操作
あえて見せない
何が起きるか読めないので、人の判断が出るまで待たせる
できることだけを「できる」と言う、正直な作りになっています。
Part 05 使うには何が要るのか
Requirements
ここを勘違いすると話がずれます。申し込めば今日から使えるサービスではありません。
設計図と部品が配られただけで、建てるのは自分たちです。
無料
中身は公開済み。商売に使ってもかまわない条件
月 5ドル〜
動かす場所の利用料は別途かかる
できたて
公式が「開発途上で粗い」と自分で書いている段階
何を手に入れるか
公開されている一式を、自分たちの手元に持ってくる
どこに建てるか
自社で契約したCloudflareの中に、自分たちで組み立てる
誰が組み立てるか
開発できる人(またはAI)が必要。買ってきて置くだけとはいかない
お試しなら
手元のパソコンで動かして中身を見られる。ただし本番向きではないと明記されている
Part 06 私たちの結論
Decision
まるごと導入するのではなく、おいしいところだけ取る。そういう整理をしました。
まねするのは「考え方」
はじめは何も触れない。必要な分だけ渡す。あとでまとめて判子。ぜんぶ記録に残す。
この流れは、いま持っている仕組みの上に自分たちで作ったほうが、早くて壊れにくい。
サイトの保守は、もっと簡単な方法で足りる
お客さまの「ここの文言を変えて」にAIが応える仕組みは、お客さまごとに置き場所を分けておくだけで作れる。
本番に出す直前を、人が確認する場所にすればいい。Cloudflare OSは要りません。
本体を入れるのは、いまではない
まだできたてで、動かすのに必要な部品も多い。すでに持っている仕組みとも役割が重なる。
扱うサイトが100件を超えるころに、あらためて考えれば十分です。
End of document
Cloudflare OSがやったのは、AIを賢くすることではありません。
賢くないAIでも、事故を起こしようがない場所を先に作った——それがこの話の中身です。